不変のFマウントに替わる形で登場したニコンの超新星、Z戦士の戦闘力について語る回。※ガチで語っているので文章長めです。
ニコンZマウントの概要
ニコンZマウントは、同社の一眼レフカメラ用であるFマウントに替わって登場したレンズマウントである。2018年にZ7の発売と共にスタートした。
2018年スタートはミラーレス機のマウントとしてはかなり遅く、これはキヤノンと並んで最後発となる。ソニーEマウントの初代α7の発売が2013年、フジXマウントのX-Pro1が2012年、X-T1が2014年であったことを考えると遅い。その頃にはもうα7IIIやX-T3が出ていたのだ。
鱗滝さん「判断が遅い!!」
Zマウント暗黒時代
これは一眼レフカメラの二台巨頭、ニコン、キヤノンがスポーツや報道用途のプロ仕様機を製造しており、OVF(光学ファインダー)の視認性やAFの速度・信頼性などのスペック面や、既存マウントレンズのユーザーへの配慮から、あくまでも一眼レフカメラにこだわり続けたためと言われている。
その後、動画撮影性能やライブビュー撮影、MFレンズの使い勝手などミラーレス機のメリットが目立つようになり、加えてEVF(電子ファインダー)やAF技術が進歩してくると時代の風には逆らえず、なし崩し的始まったマウントであったことは否めない。
そんなわけでZマウント初期は肝心のレンズラインナップが乏しく、Z7(Z6)のデザインはパッとせず、FTZは最強にダサい……という割と散々なスタートだったように思える。
逆襲のZマウント
時が経ち2024年、そのZマウントは怒濤の追い上げを見せている。大口径マウントとショートフランジバックのメリットを生かしたNikkor Zレンズは軒並み高性能を誇り、新製品の絶え間ない市場投入によりかつてのFマウント並のラインナップまで回復した。
カメラ本体の展開も抜かりなく、エントリー機のZfc、プロ仕様機Z9、……からのフィードバックを活かしたZ8、Zfと魅力的なカメラが揃っている。どれも粒揃いかつキャラも立っているので、ちょっと前のヤングジャンプのような黄金期の様相を呈していると思う。
ミラーレス機は、先行者利益を得たソニー・富士が「逃げ」、出遅れたニコン・キヤノンが「追込」形となっている。ソニーはマウント径、富士はセンサーサイズに弱みがあり、ニコン・キヤノンは逆にマウント径とユーザビリティに強みがあり、互いに競っている状況にあるのだが、、、
複数マウント持ちだとこの状況は面白く、カメラ屋に意味もなく通いたくなる。筆者は最新機を買えないので低みの見物になるのだが、Zマウントがどこまで行っちゃうのかはかなり興味がある。とりあえずZ8(Z9)は超すごいカメラ。
長所
ニコンZマウント機の長所は以下の通り。
・ユーザビリティの高いカメラ設計 ・マウント設計が有利 ・純正レンズが高性能 ・マウントアダプターでFマウントレンズも使える |
マウント設計が有利
ニコンZマウントは現在発売中の主要デジカメの中で、最大のマウント径と最短のフランジバックを併せ持つ。光学設計において有利なため、高性能レンズを作成しやすいアドバンテージがある。
(この特徴はキヤノンRFマウントも同様)
ニコンの在来マウントは「不変のFマウント」の異名があり、長年の間現役で使われていた規格なのだが、昔の規格ゆえマウント径が小さく一眼レフ機ゆえフランジバックも長いため、高性能化が著しい昨今にかけてはさすがに制約が目立ってきた。
これは先行者利益と二律背反となる部分で、カメラという道具の宿命となる。同じ状況だったキヤノンは1987時点でEFマウントに更新することで互換切りを行っているが、ニコンは細かい仕様変更を経ながら1958年のFマウントを現代まで使い続けてきたのだ。
Zマウントは約60年ぶりのマウント更新といえ、カメラ史的にも大きな転換点と言える。ミラーレス機のにおいては、先行者として牽引してきたソニーEマウントが現在同じ状況に置かれているが、ニコンZマウントはしばらくその心配はなさそうだ。
純正レンズが高性能
Zマウントに更新したことでマウント径やフランジバックを解決したニッコールレンズは新たな次元に突入した。Fマウント末期ではシグマArtシリーズら超高性能レンズの後塵を介していたが、これによってレンズ性能が飛躍的に向上した。Z戦士誕生の瞬間である。
画質が特に優れているレンズはS Line(Sライン)というのだが、恐ろしいのは特段明るさや画質を求められていなさそうなキットレンズですら高性能を誇ること。
特にNIKKOR 24-70 F4Sは、キットレンズらしからぬ描写性能に誰もが驚愕しただろう。これは「なめててマジスンマセンでした!!」と平謝りするレベル。その発展形のNIKKOR 24-120 F4S、NIKKOR 24-70 F2.8SもFマウント時代とはまるで別物だ。
ただし歪曲収差は電子補正に頼っている部分もあるので、純粋な光学設計のみでやってのける一眼レフ機末期のレンズにはここだけ劣る部分はある。しかしその代わり周辺や四隅は改善している。
ユーザビリティの高さ
ボディについてはFマウント機同様ユーザビリティが練られており使いやすい。例によってグリップは握りやすく、各種ボタンも被らないようにすべて高さや角度を変えてある。またファインダーはEVFだが見やすいと評判で、なかなか評価が高い。
操作系も概ね変わらず(画面拡大用の+ボタン、-ボタンが移動したりはしたが)、例によって電源投入後ほぼノータイムで撮影でき、再生ボタン⇒ゴミ箱ボタンで失敗写真をすぐ消せる。
他にはボディ内手振れ補正が実装されたことでFマウント機よりもシャッタースピードを落とせるようになり、夜景撮影性能がより向上した。ファンクションボタンも導入され、RAWを割り当てると1枚のみ撮影できるのも便利。
Fマウントのレンズも使える
Zマウントへの移行にあたって、当然ながら従来のFマウントユーザーにも配慮はされており、マウントアダプターFtz(Ftz2)を使えば引き続き用いることができる。
ただしAFが動作するのはGタイプかEタイプレンズ(正確には超音波モーターなどを搭載しているレンズ)である必要があり、これを搭載しないDタイプのレンズはMFオンリーとなる。
一見不親切にも思えるが、Fマウント時代でもボディ内モーターを備えないエントリー機種は大体こうだったので、Fマウント機を使っていた人は概ね受け入れられると思う。むしろボディ内モーターがなくなったことで新しい機構や装備を搭載できるので、必要な進化というべきだろう。
シグマ、タムロンなどのサードパーティについてはこの法則が必ずしも当てはまらいので注意。このブログで紹介したシグマArtシリーズはFtZでAFは動作する。タムロンは一部しないものがあったり、タップインコンソールでアップデートが必要なものもあるようだ。
タムロン、シグマについては公式で対応機種が列挙されているので確認をするとよい。タムロンは2019年5月以降に発売されたFマウント用レンズについては対応。それ以前は下記サイト参照。
短所
ニコンZマウント機の短所は以下の通り。
・デザインがダサい ・レンズのサードパーティ展開が少ない |
デザインがダサい……。
これは筆者の率直な感想だがZ7(Z6、Z5も)のデザインがダサい…。熱心なファンからは怒られそうだけど。スミマセン。でもソニーとか富士フイルムの方がカッコいいと思う。一眼レフ機ならペンタックスの方がカッコいい。
対してZ7はなんかコンニャクみたいな締まらない形をしている。ただしこれはユーザビリティを追求した結果であり必然性のあるデザインにはなっていて、実際触ると良さがわかる。だが触ってみるまではコンニャクだ。
またマウント径がデカすぎるせいで本体とのバランスが悪い。Zfcも一見カッコいいが、マウント径がデカすぎて違和感はある。Z9、Z8は従来のD6、D850に近いスタイルで、ガタイがいいぶんマウント径の大きさが目立たないのであまり不自然さはない。
そしてレンズのデザインもよくない。50mm F1.8Sは高性能なのだがいかんせんダサい。またFマウントとのマウントアダプターのFTZ(FTZ2)のデザインもダサい。Ai Nikkor風やDタイプ風の復刻デザインがあってもいいと思う。本体はともかくこの辺はちょっと擁護できない部分。
また中華レンズを使う際もマウント部分のスペーサー部分は無駄だし純粋にカッコ悪い。もっともこれは汎用設計で使い回しているサードパーティ側の問題なのでお門違いではあるのだが。
サードパーティ展開が乏しい
ニコンZマウントは営業戦略上の理由でサードパーティの展開が少ない。Fマウント時代と異なり、シグマ、タムロン、ケンコートキナーはほぼ展開しないので選択肢が純正品に限られやすい。
ニコンはせっかく復刻デザインのZfcやzfを展開しているものの、似合うレンズが少ないのが泣き所となっている。シグマのiシリーズなどはドストライクに似合うので待望論が根強い。しかし2024年現在実現には至っていない。
ただしニコンが単に狭量なだけではなく、サードパーティのレンズは汎用設計にする場合は事実上ソニーEマウントが設計基準になるので、大口径&ショートフランジバックのZマウントにレンズを提供する場合、Zマウント専用設計にしないと性能面で厳しいという事情もあると思う。
ただし全く無いわけではなくMFレンズでよければ普通に入手できる。コシナやラオワなどの高性能レンズや、TTArtisan、七工匠、Pergearなどの激安系中華レンズなどバリエーションに富んでおり意外と楽しめる。また純正レンズにはない絞りリング付きなのでその点も差別化できる。
こんな人にオススメ
ニコンZマウント機のおすすめポイントは以下の通り。Fマウント同様メイン機として使って問題ない。動画機能も重視したいならZ9かZ8になる。
・使いやすいカメラが欲しい人 ・高性能なレンズを使いたい人 ・Fマウントのレンズ資産がある人 ・ニコン信者な人 |
使いやすいカメラが欲しい人
ニコンのカメラは単純に「道具」としての完成度が高い。純粋に使いやすく、レンズ性能が高く、かつ頑丈でラフな使用にも耐える。フジやペンタックスが良くも悪くも「趣味機」なのに対して、ニコンは正面から「実用機」たり得る性能と信頼性がある。
これは無意識になりがちだがよくよく考えるとすごいことだ。普段ダメな子がたまに成功したりいいことをすると周りから褒められるが、優等生は失敗しないことが当たり前で、別段褒められたりしない。逆に何かで失敗すると物凄く怒られてしまう。
ニコンのカメラはユーザーから常に減点評価の厳しい評価をされていて、その期待と要求に長年応えてきた歴史と自負がある。それゆえカタログスペックには表せない部分も手を抜かない江戸っ子的な気質があり、そうした小さな積み重ねこそがユーザビリティや信頼性に反映されている。
デザインがダサいとか好き勝手言ってるが、ここぞで連れていきたいのはやっぱりニコンだ。それはZマウントになっても変わらない。なんだかんだでニコンはいいぞ、と。
ニコン信者の人
──これ以上何を語れというのですか。
……というのは冗談。けど半分ホント。Fマウントレンズ資産がある人、フィルムカメラ時代の思い出がある人、そうでなくともZfcやZfに触れてビビビッと来ちゃった人、今更何を悩むというのですか。
(駄目だこいつ……早くなんとかしないと)
おすすめのカメラ
ニコン機はユーザビリティがいいので基本どれを選んでもストレスは少ない。コスパがいいのは初代Z6で、フルサイズで画素数そこそこ、高感度耐性も強く、Z6II、Z9、Z8、Zfなど後継機が出たことで下取り在庫も多いので狙い目。
エントリーとしてはZfc。これはシンプルだが撮影に必要な機能はまとまっている。質感はややチープで、フラットボディのため用いにくいがグリップを付けると改善するし中華レンズとの相性も良い。より本格的に楽しみたいならZfにするとよい。
Z8はD800やD850などハイアマチュア機の系譜。真打は遅れてやってくる。Z9で培った新技術が搭載されているので色々試してみたい気持ちはある。使っているD200、D800とガタイが同じのため慣れていて、FTZ IIを介してFマウントレンズを付けてもデザイン上不自然にならないのも良き。
Nikon Z6(2018年発売)
ニコンZマウントのフルサイズ機としてはもっともスタンダードなカメラ。2528万画素と必要十分な画素数を備える。後継機が2年後に出たことから中古価格がこなれており、高感度特性が強いので夜景スナップの共に使える。
兄弟機としてZ7がありこちらは4689万画素と高画素機となっている。まったく同一のセンサーではないらしいがこれはFマウント機の到達点として名高いD850と同じ水準となる。
ネックは記録メディアのスロットがXQDカード×1しかないこと。SDカードが使えずよって本体内コピーも不可。プロトタイプだしね。仕方ないね。と言われてしまえばそれまでだが人によってはちょっと不便かも。
Z6IIとの比較
後継機としてはZ6II(Z7II):2020年発売となる。位置づけとしては細かい不満点や欠点を潰してブラッシュアップしたマイナーチェンジ版になる。画素数は2450万画素でFマウント機のD780と同じ。
違いとしては、まず画像処理エンジン(EXPEED)がデュアルコア化したことで処理速度が向上しており、連射速度やノイズ低減が強化されている。またファームウェアアップデートの恩恵も受けることができ、AF機能が暫定的に向上している。
ハード面ではカードスロットがXQD×1、SD×1となり、本体内コピーも可能になった。またバッテリーが新型となり容量がアップした(EN-EL15b:1,900mAh→EN-EL15c:2,280mAh)。このバッテリーはD850やZ7など過去のカメラにも使用可能。
ネックとしてはやはり価格で、2024年現在の現行機なので価格がかなり上がってしまう。またZ6IIIがそろそろ出るという噂もあるので時期が悪いかもしれない。動体撮影や連射などにこだわらなければ初代Z6でも十分と思う。
Nikon Zfc(2021年)
Fマウント機のDF以来の復刻デザイン機となるカメラ。スペックはAPS-C機であるエントリーモデルのZ50をベースにしている。シルバーとブラックの二色展開。筆者は当然シルバーをチョイス。
元ネタとなったフィルムカメラのFM2をかなり忠実に再現していて、並べてみると瓜二つ。フラットボディは新規バッテリーを開発することでなんとか実現した代物でかなりの難産だったという。フラットゆえに握りにくいが、L字グリップやサムグリップを付けることで改善する。
性能としてはシンプルにまとまっていて、ボディ内手振れ補正こそないものの、画素数が控えめなので高感度耐性も良好で使いやすい。またシャッター音がカッコいい。ファッション性が高く、中華レンズとの相性もいいのでガチャガチャ遊べるカメラ。
Nikon ZF(2023年)
ニコ爺待望のZfcフルサイズ版カメラ。Zfcをそのまま一回り大きくしたようなデザインで、マウント径とのバランスも良くなった他、ダイヤルを真鍮製にしたことで重量感が増した。こちらはブラックモデルのみとなる。
通常、ニコンの復刻デザイン機はスペックが落とされることが多いがこのZfは別で、実質的にはZ6 ver2.5といっても差支えの無いスペックを持つ。そのためガチ撮り派にもおすすめできる機種となる。
復刻デザイン機ゆえ似合うレンズが少なさそうだが、ガタイがよくなったこと、ブラックモデルしかないことから、実は通常のZマウント用レンズでもそこそこ似合ったりする。L字グリップを付けるとより違和感がなくなるだろう。
NEEWER Zf レトロフォーム ハンドグリップ
ちなみに中華メーカーのNEEWERからどこかで見たことのある赤いラインの入ったL字グリップが出ていて、これを付けるとジウジアーロデザインで知られる往年のフィルム機・F3っぽい見た目に変身することができる。ご丁寧に真鍮製のレリーズボタンも付属する。
取り付け例は画像検索をかけると出てくるが、結構雰囲気が出ている。
Nikon Z8(2023年)
これもニコ爺待望のモデルで、Zマウント念願のハイアマチュア機となる。
Fマウント最後のハイアマチュア機はD850となるのだが、直接の後継機となったZ7は実はミドルクラス相当じゃないのかと当初から言われていて、四つ葉ダイヤルや丸目ファインダー、イルミネーションボタンなどもなく、実際並べてみると格下感が否めなかった。
のちZマウント初のプロ仕様機であるZ9が開発され、そのノウハウを用いて作られたのがこのZ8で、名実ともにハイアマチュア機の座にふさわしいカメラが登場した。積層型CMOSセンサーを備えることで読み出し機能が強化され、動画機能や高速撮影機能が大幅に強化されている。
超絶性能いろいろ
Z9で培った技術が随所にフィードバックされている。Z9同様メカシャッターレス機構を搭載しており、電子シャッターオンリーとなっている。メカシャッターがなくなったことの恩恵は絶大で、まず理論上のシャッター回数に制限が無い。当然ながら物理的故障の心配も無い。
電子シャッターとなったことでシャッタースピードや連続撮影枚数も大幅に向上した上、シャッターショックもない。代わりにシャッターシールドを備え、太陽等の強光撮影やレンズ交換時でもイメージセンサーが無防備にならないようになった。
撮影機能としては、4571万画素と高画素機の域をそのままにAFが大幅に強化されており、先述の連続撮影性能と相まって動体撮影スペックが大幅に向上している。これはそのまま動画機能のスペックも上がっていることをも意味している。
もちろん風格も抜かりなしで、丸型ファインダーやボタンイルミネーションといった高級装備も実装。ガタイがD800系と同程度あるので各種Zマウントはもちろん、FTZ2を用いてFマウント時代のレンズを用いても違和感が無いメリットもあり、懐の広さをも備える。
まとめ
Zマウントはミラーレス機の中では最後発で、マウント初期はレンズラインナップも寂しいものがあったが、そこから怒濤の追い上げを見せているマウントになる。
サードパーティ展開こそないものの純正レンズはどれも概ね高性能でハズレが少ない。カメラ本体もFマウントのユーザビリティを踏襲しているため使いやすく、かつキャラも立っているため新規ユーザーへの訴求力も十分備えている。
Z8やZ9、Slineレンズの超絶スペックを堪能できる一方で、Zfcに激安中華レンズを付けてガジェット的に遊ぶこともできて意外と楽しめる幅が広い。FTZ(FTZII)を使い倒してFマウント時代のレンズを持ってくる楽しみもある。
筆者はZ8とZf両方欲しいです。中華時計買ってる場合じゃねぇ!!
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