Tricker’s M2508 malton(ネイビー)

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靴関連

イギリスの誇る名靴・トリッカーズのレビュー。興奮気味なのでテキスト量多めです。

どんなモデル?

 イギリス・ノーザンプトンに工房を構える老舗のシューメーカー、トリッカーズ謹製のカントリーブーツである。フルブローグと呼ばれる穴飾りが特徴的で、元は農作業用の靴だったらしい。

このモデルはモールトン(Malton)という。よく似た仕様の靴にはストウ(Stow)というモデルがあって、革やソールが違う、ウェルトの形が違うなどあったらしいが、現在はあまり区別されていない。同デザインのローカット(短靴)にはバートン(BOURTON)があり、これも人気。

同ブランドの代名詞にもなっているモデルで、ファッション雑誌にも頻繁に登場するかなり有名なモデルになる。靴好きの間ではもはや知らない人はいないと思われるモデルで、筆者も学生時代からずっとあこがれだったのだが、この前ひょんなことから入手するに至った。中古だけど。

ストウ? モールトン?

さてこのモデルはモールトン:MALTON(M2508)になる。ストウ:STOW(M5634)ではない。その昔は‥‥

STOW(M5634):カーフレザー+レザーソール
MALTON(M2508):ゴースカーフレザー+ダイナイトソール



で、定番モデルのカラーリングでいうと、エイコーン・マロン・エスプレッソ・ブラックがストウで、シーシェイド(C SHADE)という艶のないオレンジ色がモールトンという違いがあったらしいが、最近は別注モデルが多く出ているため実質的には差がないらしい。

他にもストウとモールトンではウェルトの形が違う(切りっぱなしになっている方がモールトン)という説もあるのだが、これも現在では分からないとのこと。ちなみにクリームの入りやエイジングはカーフレザーの方が早い。ゴースカーフは耐久性や耐水性に優れるとのこと。

このモデルについてはモールトンだが、カラーがネイビーになっているためこれがカーフなのか、ゴースカーフなのかはわからない。だが触った感じはかなり固く、いかにも頑丈そうな印象を受ける。

ディティール

全体像

フルブローグタイプのウイングチップブーツとなる。トリッカーズといえばまずコレだろう。同社のアイコンにもなっている象徴的なデザインだ。

実はフルブローグはトリッカーズが元祖というわけではなく、他の英国靴ブランドや、ひいてはアメリカや日本などの靴メーカーに至るまで広く使われる普遍的デザインになっているのだが、



中でもトリッカーズが一段と有名なのは、創業年が一段古いこと、英国王室御用達であること、そして極端に頑丈であることといったキャラクターが濃いからだろう。

1829年のイギリスといえばカトリック教徒解放法である。これは世界史で習う。またシャーロックホームズにも出てくるスコットランドヤード(ロンドン警視庁)の発足年だ。その頃の日本は享保の改革である。アメリカではジャクソン大統領が就任、翌年のフランスでは七月革命である。

そんな時代からほぼ200年を経てまだ存続しているのである。これはスゴイ。

フルブローグ

トリッカーズといえばやはりフルブローグだろう。同社の十八番でありアイコンであり象徴である。ウイングチップとほぼ同様のものだが、この呼び方はアメリカでの呼び方で、本場イギリスではこの呼び方を用いるらしい。

フルブローグ(Full Brogues)の由来は、アイルランドやスコットランドで使われていた、水はけを良くするために靴に穴を開けた「ブローグ」という靴にあるらしい。湿地帯を歩く際に水が履けをよくするためにアッパーレザーに穴飾りを開けたのが始まりだそうだ。


フル(Full)というのはつまりそういうことで、セミブローグ(ハーフブローグ)、クオーターブローグ、パンチドキャップとなるにつれて穴飾りは減っていく。ルーツ的にも見た目的にも割とカジュアル寄りの意匠で、後者になるにつれてフォーマル&ドレス寄りになっていく。

そのため、スーツなどに合わせる場合注意が必要ではある。この靴の場合はブーツなので普通に合わせない方が無難だ。とはいえ筆者の会社はオフィスカジュアルなので普通にこの靴を履いてしまっていたりするが(笑)

コマンドソール

この個体はいわゆるコマンドソール仕様になっている。これはミリタリーブーツや登山靴などのアウトドア用途を想定されたソールで、ゴツゴツとしたトレッドパターンが武骨な印象を与える。このコマンドソールは割とクセ強で、良い点と悪い点があり、

【良い点】【悪い点】
トゥが消耗しにくい武骨でドレス感がない
雨天でも滑りにくい泥や小石がハマりやすい
耐久性が高く相対的には安価ゴツくて重たい
返りがあり歩きやすい靴全体が反ってしまう


という感じになる。素晴らしいのは耐久性で、トレッドによってトゥが地面と接地しないため、スチールトゥなどを必要としない点だ。レザーソールだと真っ先に擦り減る部分だし、ダイナイトでも設置する分摩耗はするのでこれはありがたい。

1か月間慣らしを兼ねてガシ履きしたのでトップリフト(ヒール)がちょっと削れているが、トレッドの厚み分長く履けるのは嬉しい。ちょっと反っているのでシューツリーはそのうち導入したい。


欠点としてはやはり重くてゴツい点。英国靴にこのようなソールは無粋な気もするが、機能的には噛み合っているので不思議と似合ってしまう。やはりカントリーブーツはガシガシ歩くための靴ということだろう。実際この靴を履いてホタルを撮りに行ったのだが、まさに打ってつけだ。

難点はトレッドの溝が深いので泥や小石がハマりやすい点。グリップ力があるのは確かにいいのだが掃除がタイヘンだ。前述のホタルを撮りに行った際にぬかるみを踏み入れてしまい、泣きながらお風呂で掃除した(二敗)。用途的には確かに合っているのだが。

その他

 この個体については金ロゴのようだ。トリッカーズには金ロゴと茶ロゴの個体があって、別注品=金ロゴ、レギュラー品=茶ロゴ という説があったようだが、これは違うらしい。ロット(製造年)によるものとも思ったがこれも確たる情報は出てこなかった。つまりよくわからない。

ロイヤルワラントがあるのでおよそ1990年代以降のモデルではある。※Tricker’sがチャールズ皇太子よりワラントを賜ったのは1989年のことなので、それ以前のモデルは当然ロイヤルワラントがない。


その他のディティールとしては、型番表記とタグである。トリッカーズはあろうことか油性マジックで手書きである。汚くて読めないww 

だがなかなか特徴のある筆跡なのでニセモノを作るのは難しいかもしれない。


一応上から「製造番号」「型番」「サイズ」である。このモデルに関しては904843(製造番号)、M2508(モールトン)、UKサイズ8、フィッティング5ということになる。上に出たが、UKサイズ8.5の場合、8 1/2 5 という表記になるため、ここで区別ができる。

製造番号が90万台になっているがこれは現行品らしい。これは若番が付いているので2000年代中期~後期あたりのモデルだろうか。タグについては、このタイプは旧タグというものらしいが、これはよくわからなかった。

履き心地

 トリッカーズの履き心地は固いとの評判だ。これはある程度覚悟をしていたのだが割と想像以上だった。我慢できない程ではないけど。

まさかのサイズミス?

UK8.0 Fitting5を着用。初トリッカーズということで迷ったのだが、本当は8.5という触れ込みで購入したところ、実はUK8だったという。

トリッカーズは本体裏に型番とサイズ・ウィズを油性マジックで書く慣習があり、書かれたサイズを読んでそう判断したわけだが、実はコレ、Size:UK8 Fitting:5 という意味で、筆者も出品者も両方錯誤していたオチである。

まあそんなわけでハーフサイズ小さいUK8になったわけだが、スニーカーで27.5cmくらい、シューズがUS8.5がマイサイズなのでまあ許容範囲で行けると思われる。思われた。

厳しい修行の日々

 トリッカーズと聞くとなぜか修行というサジェストが出てくる。ノーザンプトンで働く工房の職人が有名なのかな?‥‥と思いきや、あまりにも素材や作りがしっかりしているので馴染ませるまで痛みに耐える必要があるという意味だった。修行するのはユーザーである。

筆者は若かったころブーツのサイズ選びが間違っており、オッサンになってからジャストサイズというものを覚えた。‥‥のはいいのだがそれなりの修行は経験した。


この個体は中古購入品(\26,800)で、ほとんど新品同様品だったのでラッキーなのだが、それゆえ革が伸びておらず、ジャスト履きは結構キツイ。足入れが普通に狭く指が動かない。やばいやってしまったかこれは‥‥!

まず小指であるこれが少し窮屈だ。親指の捨て寸もかなりギリギリだ。ここでダメな人は脱落するかもしれない。ただモールトンはフィッティング5(ワイズEくらい)なので、どうしてもキツイ人はハーフサイズ上げれば大丈夫だろう。


問題はアイレットのあたり。トリッカーズは甲が低いので、甲高だとどうしても痛くて履けないかもしれない。ギブアップな人もいるかもしれない。ちなみに筆者は右足の甲が痛い。ただし我慢できないほどではなくタン(ベロ)の位置調整で痛みは緩和できるらしい。

サイズミスも疑ったが理論上はマイサイズのはずなので「トリッカーズを信じろ!」ということで1か月間くらい履き続けることにした。右足の甲が痛むこともあるがここもやがて解消するだろう。

トリッカーズを信じろ!!

 その修業の日々なのだが、小指親指の窮屈な感じは2,3日程履いていたら割と解消した感じがある。筆者の場合、革が伸びたり中物が沈んだりして次第に馴染んできたのか、修行1か月目で大体馴染んでくれた。その結果なのだが‥‥

────なじむ!実に!なじむぞッ! 



履いた時のカッチリ感はさすがで、アメリカの大味なワークブーツとは一線を画する。これぞ英国靴である。ハーフサイズ上げれば楽にはなるが、この靴はぜひともジャストサイズで履きたい靴である。トリッカーズ196年の歴史を信じよう。信じる者は救われる。


なおトリッカーズのモールトンは複数所持しているがサイズの個体差が大きいかもしれない。左右でサイズ感が違うとか、同じ靴の別個体でも違うとかどうもそんな感じだ。この辺はやはり海外クオリティで割とアバウトなので環境が許すなら試着した方がいい。

これはソールの種類(レザー、ダイナイト、コマンドの違い)や、中古購入品であることもあると思う。当然靴の種類が違ってくると別だ。同じフルブローグでもバートン(短靴)とモールトン(ブーツ)だとラストが違うので当然サイズ感は変わってくる。

入手方法

 ここまで紹介しておいて何だが、ネイビーブルーのトリッカーズを入手するのはちょいと根気がいるかもしれない。

トリッカーズではエイコーン、マロン、エスプレッソ、ブラックの4色、+シーシェイド(モールトン)レギュラーカラーになっているところ、ネイビーは特注品になってしまう。そのため通常のお店や通販では手に入らない。入手方法は3つほどある。


①カラーオーダーフェアで入手する
②ショップ別注モデルをチェックする
③ヤフオクメルカリなどで中古品を買う

ひとつはカラーオーダーを入手すること。トリッカーズは定期的にカラーオーダーフェアを開催してくれる。そこでは通常のレギュラーカラー以外のモデルを注文することができる。3つのうち確実に入手できる方法はこれで、コンビカラーなど凝った仕様も可能だ。



もうひとつはショップ別注モデルを狙ってみるといい。定期的に変わった色のトリッカーズを作成してくれる。ネイビーとかホワイトはそこそこ人気なので定期的に売りに出されることが多い。ただし好みの仕様が出てくれるかどうかは運次第なところはある。

最後は中古品を買うという方法。筆者は結局コレになった。これも運ゲーになってしまうが、ネイビーならそこそこ出回るので少しの間待ってみても良い。①②は正規品価格になってしまうところ、③は中古品なのでかなり格安で入手できる。今回は¥26,800だった。安い!

メンテナンス

 メンテナンスにはサフィールのビーズワックス(ネイビーブルー)を使用している。ネイビーに関してはたぶん濃淡とか味が出てくる革ではおそらくないと思うので、普通に補色しながら使った方がいいのかなという判断になる。

筆者は靴クリームのメーカーにあまりこだわりはないのだが、濃色系はやっぱりサフィールがいいと思う。ただし高級品のクレム1925を使う程でもない。今使ってるのがなくなったら試してみたい。

ネイビーは基本色なのでモゥブレイやブーツブラックからも出ている。もちろんそれを使っても何の問題もない。


ミッドソールやコバに関してはレザーを黒塗りにして仕上げてあるので、歩行の際にこすれるなどして地の色が出てきてしまう。その場合はコロンブスのカラーリペアで補色してあげるとよいだろう。これも黒なら何でもよい。

まとめ

 そんなわけでトリッカーズ・モールトンのレビューだった。この靴に関しては思い入れがとても多いのでいつもよりテキストの分量が多くなってしまった。

トリッカーズは学生時代から当然知っていて物凄く憧れた靴だったのだが、普通に高価で高嶺の花の上、2012年頃に靴を一通り揃えてしまったこともあって今に至るまで履かなかったのだが、いつか必ず履いてみたいと思っていた靴だった。

その当時から結局20年近くの時が経過してしまい、しかも入手したのは正規品どころか中古品だったので諸行無常もヘッタクレもないのだが、その感動はひとしおでとても満足している。筆者もいよいよトリッカーズを履くお年頃になったのだ。

クールビズやオフィスカジュアルを逆手に取り、職場にコッソリ履いて行っている次第。普通にガシ履きしているのでエイジングは早そうだ。この靴に関してはちょっと経過を追ってみたいかも。

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